<インタビュー・文/峰尾亮平(瀬戸内いとなみ舎)>
島で暮らすひとたちの、
ここにいる理由と、これから。
インタビュー形式でそれを記していく連載、
『ここで、これから』。
西村京子さんの後編をお届けします。
西村さんは、地域おこし協力隊として江田島市に移住。
3年間「オリーブ普及員」として活動されました。
前編では、協力隊卒業後に住み込みでパン屋研修に行った
「ブーランジェリー・ドリアン」さんでの様子などをお聞きしました。
後編では、来春オープン予定のお店について聞いていきます。
どうぞお楽しみください。
西村京子さんの「ここで、これから」
西村京子さん
岩国市出身。広島市内のケーブルテレビ勤務を経て、江田島市の「地域おこし協力隊」1期生として江田島市に移住。「オリーブ普及員」として3年間活動。フィギュアスケート大会でおなじみとなったオリーブ冠や、島内のお店を舞台としたオリーブスタンプラリーなどを仕掛け、江田島市のオリーブを内外に発信。
2019年春、地域おこし協力隊を卒業。2020年春のパン屋オープンに向け、現在準備中。
「やっぱり私は、この島でパン屋がやりたい」
-協力隊として活動され、江田島の色んな部分を見てこられたと思います。江田島市は人口が減り続けている現実がありますよね。島で商売をする、特にパン屋さんをすることは、厳しい見通しをする方もいるだろうと想像します。そのうえで、それでも西村さんが、島でパン屋をやりたいと思った。そのことを聞かせてください。
西村さん:島には美味しい食材がたくさんあります。オリーブをはじめ、柑橘や野菜などの山のもの、牡蠣やお魚などの海のもの。島暮らしは自然ととても近く、海も山も畑もあって、いつでも産直のように、新鮮な食材を手に入れることが出来ます。
-いつでも産直のように。本当にそうですよね。とても豊かで、ぜいたくな環境ですよね。
西村さん:私が取り組んできたオリーブとパンは、それらの食材をつなげることが出来ると思いました。島で出会ってきた素敵な生産者さん。私のお店が、そんな生産者さんの「想い」と、消費者であるお客さんがつながる場所であったらいいなと思っています。
-「想い」の見えるお店。素敵です。
西村さん:もうひとつ理由があります。コミュニティスペースを作りたいという気持ちも膨らんできました。
-まるでパンのように・・
西村さん:笑。島には、みんなが気軽に集っておしゃべり出来るような場が多くありません。そうした場所があることで、地域のひとも、観光で訪れてきた方も、移住者も、顔を見てつながることが出来ます。そんな場所を自分でも作りたくて、ただのパン屋ではなく、パン屋カフェを目指すことにしました。
-いいですね。
西村さん:私が大好きな「カフェ渚」さん(三高港前)とかがまさにそういうお店だと思うのですが、「あそこに行けば誰かに会える」 そんな場所になりたいですね。
-お気持ちがすごくわかります。「あそこに行けば誰かに会える」 そういう場所がある、そういう場所をひとつでも知っていることって、生活のなかで、なんというか、すごく助けにもなりますよね。
西村さん:そう思います。
DIY作業、休憩のひとこま。縁側で談笑する西村さんと、手伝いにかけつけた皆さん。「人が集まる場」がすでにスタートしていました
-カフェの部分はどんなふうになりそうですか??
西村さん:これから自分の石窯を作って、その石窯でパンを焼くところからスタートなので、どれくらいの時期からカフェ営業を始められるかまだわかりませんが、カフェでは、パンを焼いたあとの余熱を使った石窯料理やお菓子を出せたらと思っています。
-夢が膨らみますね。まるでパンのように・・・
いちからのお店づくり
西村さん:大柿町に昭和中期の古民家を買いました。そこをお店にするために改装中です。江田島に移住してから、ずーっとおうちを探していました。島だから、海の見える物件がいいなと思っていたのですが、なかなか思うような物件に出会わず。そうして出会った物件は、どちらかというと山に近くて、さっぱり海が見えない場所なのですが(笑)、いるだけですごく気持ちがよくなるような場所なんです。
-あの、パン屋さんって、初期投資に結構お金がかかるって言いますよね。
西村さん:そうなんです。こつこつ貯めてきた自己資金もあったのですが、当然それだけでは足りず、融資の相談に行ったり、いま、クラウドファンディングにも挑戦しています。
-夢のためにこつこつとお金を貯めてきた。すごい情熱ですね。
西村さん:もとから節約が趣味ではあったのですが、大学の奨学金を返すために日々の生活費をケチってこつこつ貯めていたんですね。どうやらそれが癖になっていました(笑)
-素晴らしいですね。
西村さん:お店づくりは、知り合いの設計士である松原綾さん(アトリエmican)にお願いしました。「西浜工務店」さんをはじめ、水道屋さんなど、現場での作業は島の業者さんにお願いしています。
設計を担当されている松原綾さんと、お店のロゴデザインなどを担当されるオリシゲシュウジさん
-DIYもされていると聞きました。
西村さん:ケチ根性が出まして(笑)、やれるところは自分たちでやりたいと思って作業しています。自分だけでなく、人の手も借りて、加えていただくことで、より一層愛着のある場所になっていく気がしました。すでに、皆さんからの愛をいっぱいもらっています。
クラウドファンディングをして気づいたこと
-クラウドファンディングもされていますね。
西村さん:クラウドファンディングでいただいた費用は石窯づくりに充てさせていただきます。ドリアンさんほどではないですが、大きな石窯を作りたいと準備しています。
-石窯というと・・・
西村さん:耐火や断熱性能のあるたくさんのレンガが必要で、扉などの部分には特注の鋳物や鉄が欠かせません。既製品ではあてはまらないので、どうしても特注になり、費用がかかってしまいます。また、石窯なので煙突も設置します。
-それは費用もかかりそうですね。
西村さん:でも、石窯でしか焼けないパンがあるので、そこはこだわっています。
DIY作業には、島内外からの助っ人がかけつけていました
-クラウドファンディングのページを見ているのですが、勢いがすごいですよね。1週間で200万円が集まったと聞きました(西村さんのクラウドファンディングの目標は300万円。その後、2週間で目標の300万円を達成。現在はネクストゴールの400万円を目指している)。
西村さん:ありがたいかぎりです。本当に。
-どんな方が支援されているのでしょう?
西村さん:もともとの長い知り合いに加えて、島で出逢ってきた皆さん、それから、ドリアン経由で私を知ってくださった方などがいらっしゃいます。
-とりわけ、江田島の皆さんから応援されているのが西村さんならではですね。
西村さん:本当にありがたいかぎりです。地域おこし協力隊として3年活動させていただいて、そのご縁がここにつながっている、皆さんがあたたかく見てくださっている、そのことを、クラウドファンディングをやりながら、あらためて実感しています。正直に言うと、クラウドファンディングをやることには躊躇もあったのですが、今は、やってよかったと思っています。お金のご支援だけでなく、ページをシェアしてくださったり、クラウドファンディングをやったことで、皆さんが応援してくださるお気持ちがすごく目に見えて、ああ、こんなにも応援してもらえているんだ、と感じることが出来ました。毎日、ご支援のメッセージを見るたびに目頭が熱くなりっぱなしです。そして、頑張らなくっちゃと責任も実感しています。
2019年3月、西村さんら3名の協力隊が卒業する際、市民有志が「卒業式」を開催。地域に愛されていることが伝わってきます
夢を口にしつづけてきた
-このクラウドファンディングの勢いは本当にすごいですよね。どうしてこんなにご支援が集まってると思いますか?
西村さん:私自身は、どんくさい性格というか、瞬発力みたいな勢いがあまりないんですね。自分の気持ちを言葉ですぐ伝えるのもうまくないし。ただ、ずーっと「パン屋をやるのが私の夢」と言い続けてきました。
-夢を言い続けてきた。
西村さん:そうですね。私がパン屋さんをやりたいと思い始めたのは、30を過ぎてからのことです。遅いですよね。それまで、大学を卒業してからケーブルテレビでしか働いたことがなく、飲食店での経験もありませんでした。そこから、公民館で開かれていたパン教室に通うことからスタートしました。そのころからになるので、もう、10年近く、「パン屋をやるのが夢」と言い続けてきました。
-10年近く。それはすごいですね。まわりの方も、「いよいよそのときがきたね。応援するよ」ってかんじなのかもしれませんね。
西村さん:そうですね。私のまわりのひとは、私の夢を皆が知ってくれているかもしれません。時間がかかりましたが、その分、時間をかけて、じわじわと夢のことをお伝え出来ていたのかもしれません。
3月オープン、そのさきの、描く未来
-工事やオープンはどんな目途でしょうか?
西村さん:12月に内装がほぼ仕上がる予定で、それが終わり次第、石窯づくりが始まります。2月中旬には工房が完成予定で、そこから実際に石窯を使ってパンの試作をはじめ、3月中にオープンすることを目指しています。
-「人・地域・環境を未来へつなぐ」、クラウドファンディングのタイトルになっている言葉ですが、すごくいいなあと思いました。
西村さん:3年間で、江田島のことがとても好きになりました。島は高齢化も進み、人口も減ってきています。私が来た時には25,000人いた人口も、今では23,000人を切りました。高齢化率も、すでに40パーセントをゆうに超えています。
-はい。
西村さん:それでも、島には豊かな自然があり、農作物の生産者さんをはじめ、あたたかい人たちがたくさんいます。私のお店が、交流拠点のひとつになれたら嬉しいですし、豊かな島の環境を次の世代や未来へつないでいきたい。そんなふうに考えています。
-豊かな島の環境を未来へつなぐ。
石窯室。ここにレンガが積まれ、石窯が出来るそう
西村さん:石窯に使う薪も、島の伐採木や剪定枝を使う予定でいます。島には海も山もあって、自然が近いですから、環境のことは「他人ごと」ではなく、身近な私たちごとです。クラウドファンディングの返礼品にも入っていますが、お店のオリジナルエコバッグも作ります。せっかく自分でお店をやるので、出来るだけビニール袋の使用を減らせたらいいなと考えています。私のお店「souda!」では、ポイントカードではなく、このエコバッグを持ってきていただけるとお会計時に割り引きとなります。
-夢の実現まであと少し、というか、今まさに夢の途中、ですね。
西村さん:そうですね。島の皆さんや地域の皆さんに愛されるお店になりたいですね。そのために、まずはオープンできるよう、頑張ります。クラウドファンディングでのご支援、どうぞよろしくお願い致します。そして、お店が出来ましたら、ぜひいらしてください。
-今日はどうもありがとうございました。
西村さんが焼いたパンたち
西村さんはクラウドファンディングに挑戦中
西村さんは現在、クラウドファンディングに挑戦されています。
ご自身のお店「しまのぱん souda!」のお店づくり。クラウドファンディングで集まったお金は、インタビューにもありましたが、石窯づくりに充てられるそうです(※石窯づくりのための目標金額300万円を達成し、現在はネクストゴール400万円を目指して挑戦中。これからのお金は、工房の改装費に充てられるようです)。
目標金額の達成だけでなく、お店の宣伝にもなるクラウドファンディング。支援だけでなく、ページのシェアや知り合いへのご紹介など、出来ることで西村さんを応援していきたいですね。こみみからも、よろしくお願い致します。
◆クラウドファンディングページ
https://readyfor.jp/projects/soudapantabeyo
しまのぱん souda!
江田島市大柿町大原1637-1
https://www.facebook.com/pantabeyo/
・インスタグラム
https://instagram.com/souda_pantabeyo
・ツイッター
https://twitter.com/souda_pantabeyo/
前編
新連載「ここで、これから」vol.01 しまのぱん souda! 西村京子さん「島で石窯パン屋カフェを開きたい」(前編)
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