新連載「ここで、これから」vol.01 しまのぱん souda! 西村京子さん「島で石窯パン屋カフェを開きたい」(前編)

<インタビュー・文/峰尾亮平(瀬戸内いとなみ舎)>
 
ご無沙汰しています、ぼくです。
突然ではありますが、以前からあたためてきた連載を始めます。
 
江田島市に移住して4年。
いま江田島は、何かが起きています。
なにか。
おもしろいことが起こりつつある。動きがある。
そんな予感や気配が、少しずつ実感に変わってきています。
 
たとえば。
少しずつですが島に新しいお店が増えてきたり、
島出身者のUターンやIターンの移住者も増えています。
とりわけ、島で「なにかしよう」という移住者が増えてきているのがこのところの傾向です。
 
この秋から冬、そして春にかけても、いくつかの新しいお店や場所がスタートします。
 
あるときふと、思ったんです。
この島に住んでいるひとには「理由」がある、と。
 
人口23,000人の島です。
若い世代の「仕事」は多くありません。
それでも、この島に残っているひと、移ってきたひと、
もどってきたひとには、それぞれ、それぞれの「理由」があります。
 
なにが好きなのか。なにを選んでここにいるのか。
ここでなにをして生きていこうとしているのか。
 
島で暮らすひとたちの、
ここにいる理由と、これから。
 
この連載では、そんなことを記していけたらと思っています。
 
第1回目は、西村京子さん。
どうぞお楽しみください。
 

西村京子さんの「ここで、これから」


西村京子さん
岩国市出身。広島市内のケーブルテレビ勤務を経て、江田島市の「地域おこし協力隊」1期生として江田島市に移住。「オリーブ普及員」として3年間活動。フィギュアスケート大会でおなじみとなったオリーブ冠や、島内のお店を舞台としたオリーブスタンプラリーなどを仕掛け、江田島市のオリーブを内外に発信。
 
2019年春、地域おこし協力隊を卒業。2020年春のパン屋オープンに向け、現在準備中。
 

地域おこし協力隊を卒業してから

 
-こんにちは。今年(2019年)の3月に協力隊を卒業されてから、西村さんはどんな日々を過ごされてきましたか?

西村さん:5月から9月まで、パンの修業に行っていました。広島市内にある「ブーランジェリー・ドリアン」さんにて、住み込みで研修させていただきました。

-ドリアンさん。

西村さん:『捨てないパン屋』という本も出されているパン屋さんです。

-RCCラジオ「おひるーな」のパーソナリティもされている、田村陽至さんのお店ですね。

西村さん:そうですそうです。「ドリアン」は私が宇宙一好きなパン屋さんです。毎朝石窯に火を入れて、余熱でじっくりパンを焼いています。パンの種類は少ないのですが、本当に美味しいパンなのです。

-西村さんが目指すパンがそこにある、ということですね?

西村さん:そうですね。パンももちろんですが、田村さんの、環境に対する考え方にもとても共感しています。

ブーランジェリー・ドリアン

広島県広島市中区八丁堀12-9
広島県広島市南区堀越2-8-22

http://derien.jp/
https://www.facebook.com/boulangerie.derien/

西村さんの好きなパン

-「捨てないパン屋」・・・というのはどういう意味なのでしょう??

西村さん:私の言葉でうまく説明できるかわかりませんが、ざっくり言うと、廃棄ロスを限りなく減らすパン屋さん、ということですね。パン業界というのは、廃棄ロスが多い業界なんですね。一般的なパンは賞味期限も短く、パン屋さんは毎日たくさんの種類を作っています。当然のことながら、売り切れるものもあれば、残ってしまうものも出てきます。

-ほう。

西村さん:田村さんのお店ドリアンも、お祖父さんの代から続くパン屋さんで、以前は一般的な町のパン屋さんのようにたくさんの種類を作っていたそうです。そうするとどうしても廃棄ロスが出てきてしまう。そこで田村さんは、廃棄ロスを少なくできるように、「ドリアン」をそれまでと違うお店に変えました。田村さんの言葉でいうと「レトロ・イノベーション」です。

-レトロ・イノベーション・・ですか。

西村さん:田村さんいわく、古いやり方で革新する、ということです。田村さんの代になって、ドリアンは、一般的な菓子パンや総菜パンから、カンパーニュやブロンなどを売るパン屋さんに変わりました。

-ほう。まさに革新ですね。
 

「ブーランジェリー・ドリアン」さんのパン
 
西村さん:古いやり方、つまり、ヨーロッパで何百年と受け継がれてきた製法を学び、取り入れ、石窯も田村さんがご自身で作られました。そんなドリアンさんのパンは、まず、とても大きいです。大きなカンパーニュは直径30センチほどにもなります。

-30センチですか?!
 
西村さん:食事の際に切りながら楽しむこれらのパンは、じつはとても日もちします。菓子パンや総菜パンと違って、使う素材もシンプルです。小麦(やライ麦)、塩、種(ルヴァン種)。基本的にこれだけです。また、パンのなかにはたっぷりの乳酸菌が含まれています。

-日もちする大きなパン・・・

そうなんです。大きなパンなので、一日に焼ける量が限られてきます。また、焼くパンの種類も大幅に減らし、ドリアンさんでは4種類のパンしか焼いていません。
 

「ドリアン」のパンを持った西村さん
 
-なるほど。ちょっと振り返りますね。いわゆる「町のパン屋」さんのように、小さいパンでたくさんの種類を焼くのではなく、大きなパンを、それも、種類をかぎって焼く、ということですね。ということは・・

西村さん:売れ残りが出る可能性が少なくなります。廃棄ロスも少なくできるのです。

-なるほど。なんだか素敵な発想ですね。

西村さん:田村さんはよく「手を抜く」という言い方をします。

-手を、抜く・・・?

西村さん:そうなんです。ここまで喋っておいてあれですが、詳しくはぜひ『捨てないパン屋』を読んでみてください(笑)

-おおー。なんだか続きがとても気になります。そして、いきなり、パン道の奥深いとこまで来てしまった気がします(笑) なるほどなるほど。西村さんも、「しまのぱん souda!」で、ドリアンさんのようなスタイルで、ドリアンさんのようなパンを焼くんですね?

西村さん:そうなります。
 


『捨てないパン屋』
田村陽至さん著(2018年11月発刊)

http://derien.jp/product/555

オリーブで酵母を起こす

 
-大きくて日もちするパン。楽しみですね。

西村さん:加えて私は、オリーブで酵母を起こします。

-オリーブで酵母、ですか???

西村さん:オリーブの実からとった酵母を種つぎし、その種でパンを焼きます。

-すごいですね。オリーブを使った新たな商品の誕生ですね。おもしろいですね。

西村さん:季節ごとに「季節のパン」もつくる予定で、そこには島の食材を使わせてもらう予定です。

-ますます楽しみになってきました。
 

しばし江田島を離れ、住み込みで修業

 

-研修の話に戻りましょうか。研修ではどんなことをされたのでしょうか?

まずは仕込み、ですね。パンの種類ごとに分量の計量するところから。それから、石窯に火をつけること。薪をくべて、温度を上げて窯をあたためる。ドリアンでは、2時間近く薪をくべ続けるんです。

-2時間も薪をくべ続けるんですね。

そうなんです。その間に同時進行で仕込みをします。ドリアンには数種類のタイマーがあって、どんくさい私は常にタイマーに追われていました。

-おぼえることが多そうですね。

西村さん:研修は実質3か月しかないので、仕込みから窯入れ窯出しまで、ひととおり身につけるのが本当に大変でした。田村師匠から、愛のある厳しい指導をいただきました。

-その道のプロの方から教わるわけですもんね。簡単ではない道のりですよね。

西村さん:研修の3か月は、寝ても覚めてもパンのことばかり考えていました。学ぶ、という意味でとても素晴らしい期間でした。田村さんの動きには、無駄がないんですね。限られた時間で、合理的に、無駄のないように動く。そこもすごく勉強になりました。
 
-なるほど。

西村さん:そして、パンを焼く作業だけでなく、仕事に対する姿勢や農家さんへの敬意、経営についての考え方など、田村さんから学ぶことがたくさんありました。

-これからパン屋を開こうとしている西村さんにとって、素晴らしい研修でしたね。

西村さん:ドリアンさんでは、パンを学びたいひとを研修生として受け入れています。私の前にも10人以上の研修生がいて、全国各地から田村さんのもとを目指してきています。その中には、研修後に自分のお店を開いた方もいらっしゃいます。

-ということは、田村さんがレトロ・イノベーションして行き着いた、ドリアン式の、大きくて、日もちする、石窯で焼くパンが、全国にじわじわと広まっているということですね?

西村さん:そういうことですね。

-そのパン屋さんが、今度は江田島にもできる。すごく楽しみになってきました。
 

「ドリアン」の窯の前で、田村さんと西村さん

-西村さんは、もともと島でのパン屋開業を視野に江田島市に移住してきたと「江田島人物図鑑」で読みましたが、協力隊の活動を経て、思いはどう変化しましたか??

西村:地域おこし協力隊として3年間活動させていただいて、やっぱり私は島で自分のお店を持ちたい、と強く思うようになりました。

後編につづきます・・・

 
島でパン屋開業を目指す西村さん。
その決意や、そこに込められた想い、そして、どんなお店を目指しているのか。
後編につづきます。
 

西村さんはクラウドファンディングに挑戦中

 
西村さんは現在、クラウドファンディングに挑戦されています。
ご自身のお店「しまのぱん souda!」のお店づくり。クラウドファンディングで集まったお金は、石窯づくりに充てられるそうです。
 

◆クラウドファンディングページ
https://readyfor.jp/projects/soudapantabeyo

しまのぱん souda!

江田島市大柿町大原1637-1
 
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